Entame Theater

Episode 03



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*コラムは「交通界」様のご厚意で転載させて頂いております
*画像はイメージです

Reckless Challengers
作り手であることの快感

 大学3年の時、中高生時代の同級生に誘われて「学生企画サークル」的なグループに参加していた。関西圏の大学生が寄り集まって作ったサークルで、ダンスパーティを企画したり、スキーツアーやテニスツアーを企画したりなど、参加メンバーが思い思いに好きなことをやって、他のメンバーがそれを手伝うというやり方をしていた。みんな、自分のやりたいことを自己責任で実行するという感じだ。

 僕が「演劇舎徳田塾」の旗揚げ公演を「プロュースさせてください」と言ったのは、この企画サークルが主催者となり、「贋作・タクシードライバー」の公演をプロデュースしたいと思ったからだった。しかし、関西の数多くの大学から数十人が参加していたが、その中で「演劇」に興味を持つ者などほとんどいなかったので、自分たちの力で本当に実現出来るのか、自分でも疑わざるを得ない。

 学生というのは気楽なもので、自分たちの行動には責任が伴うということを、分かっているようで理解していない。後になって思えば、なんとも無責任な申し出をしたのものだと、冷や汗が出る思いだ。演劇の公演を実現するのに必要なことは何か?について、自分の大学の演劇部の部長や、バイト先の店長の紹介でホールの小屋付きスタッフさんに話を聞くなどして、手探りで準備を進めた。劇団の役者さんたちの中には「学生に任せておいて大丈夫なのか?」と不安視する人もいたが、徳田さんは「あいつらを信じる」と言い切ってくれたようで、僕としては何としても徳田さんの期待を裏切るわけにはいかなかった。

 1983年12月16~17日、演劇舎徳田塾の旗揚げ公演「贋作・タクシードライバー」が当時の「南海ホール」(後の心斎橋筋2丁目劇場)で行われることが決まった。公演までの2〜3カ月の間にしなければいけないことは山ほどあったが、何よりも大変なのがチケットの販売だった。
 南海ホールのキャパは150人くらい。2日間で3公演だから、450枚のチケットを売らなければいけない。もちろん劇団員も売ってくれるが、プロデュースする側としては本気で売らないといけない。「徳田塾の芝居を世に出したい」と言う気持ちだけでやってきたが、赤字を出すわけにはいかないからだ。

 芝居の稽古は平日週末を問わず、毎日午後6時から劇団の稽古場でやっていたが、僕は企画サークルの仲間に声を掛け、毎回2〜3人ずつを連れて稽古場を訪れ、仲間に芝居の稽古を見せた。この芝居のことを仲間に知ってもらい、「この芝居を多くの人に観てもらいたい」という気持ちにさせることが出来たら、チケットの販売に拍車を掛けることが出来るだろうと考えたのだ。徳田さんは僕たちの稽古見学を歓迎してくれた。「他人に見られる」という緊張感を役者に常に感じさせたいと思っていたそうだ。それに徳田さんは、「徳田塾の芝居は、初めて芝居を観るという人にこそ観てもらいたい」と考えていたので、僕たちの訪問を本当に喜んでくれていた。

 徳田さんの演技指導はとても厳しいものだった。役者を挑発し、表現を引き出し、それを時には煽り、時には厳しく罵倒するという繰り返しに、芝居の稽古を初めてみるサークルの仲間たちは圧倒されていた。中には「この劇団を世に出したい」という気持ちに共感する者もいて、これを切っ掛けに演劇の沼にハマる者もいたくらいだ。

 徳田さんは舞台の仕込みの後のゲネプロでも苛立ちを隠していなかった。この芝居の成否はひとえに主演のタクシードライバー役の稲健二くんの出来にかかっていたのだが、稲くんは長尺の芝居をするのも初めてだったし、一人語りの長台詞もあったし、本番の舞台を見て完全に舞い上がっていたのだ。僕は稲くんが徳田さんの「地獄のしごき」に耐えてきたのを見て来たし、ポエムシアターの時以上に「存在感」を醸していたので、きっと大丈夫だと信じていた。2日目のマチネ(昼公演)の時、一人語りのシーンでセリフが迷走して肝を冷やしたが、迫力満点の芝居で観客を圧倒した。

 公演は興行的に成功し、徳田さん自身も納得のいく舞台を作ることが出来たようで、僕たちの無謀な挑戦は終わった。その後「演劇舎・徳田塾」は「劇団スタジオ・鏡」と改名し、活動を続けた。2006年に徳田さんが亡くなって以降は、単独の公演をしなくなったが、タクシードライバー役を演じた稲健二くんを時々テレビで見かけるたびに嬉しくなる。特に「半沢直樹」に古田新太演じる副頭取の側近の役で出ているのを見て、立派な役者になったなと感慨深い。僕はこの公演で「作り手」であることの快感を覚えてしまった。

Continued

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