Entame Theater

Episode 06



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*コラムは「交通界」様のご厚意で転載させて頂いております
*画像はイメージです

Organizational Strength
辣腕プロデューサの現場人間学

「西部警察PART―Ⅲ」の関西ロケでは大阪・神戸篇、京都篇、大阪・大津篇の3本の撮影となるのだが、その撮影は1984年の2月24日、京都ロケから始まった。そして大津(琵琶湖)ロケ、大阪ロケと続き、最後の神戸ロケを3月11日に締め括った。僕は大阪の朝日放送に設置された「ロケ実施本部」にいたのだが、大津ロケのときだけは琵琶湖ホテル内に設置された「前線基地」に派遣されていた。

 大津に向かうときに、チーフプロデューサーの仲川利久さんからある指示を受けた。「秋山くん、明日の朝8時ごろから石原プロの小林(正彦)専務の車に同乗して道案内をしてくれ。神戸の名谷のあたりのロケ地の確認に行くらしいんだよ」。石原プロの小林専務というと、石原裕次郎の「懐刀」と言われた辣腕のプロデューサーで、清水次郎長の配下の「大政・小政」になぞらえて「コマサ」と呼ばれていた超有名人。僕は猛烈に緊張してその朝を迎えた。
見るからに堅気ではない雰囲気を醸した小林専務に「おはようございます。事務局の秋山と申します」と挨拶すると、小林専務は「あぁ、お前がリキュウの弟子か!」と一喝して僕をビビらせた。

 神戸に向かったメンバーは小林専務を筆頭に石原プロの車両担当の20代のスタッフから特殊効果担当の60代のスタッフまで総勢10名ほど。僕は小林専務が運転するフォード・エクスプローラーの助手席に座り、他のスタッフが数台の車に分乗して出発した。神戸ロケでは、1985年に開催される「ユニバーシアード神戸大会」のメインスタジアムの建設予定地である大規模な造成地の中を大型ダンプカー数十台とパトカー数十台による壮絶なカーチェイスを撮影するらしく、今回のロケハンの目的はその造成地の下見と、特注しているダンプの装甲車を確認しに行くことだった。造成地を見て回った後、神戸市営地下鉄西神・山手線の名谷駅前に立ち寄った。
「よし!メシにするぞ!」と小林専務が大号令を掛けたのだが、石原プロのスタッフ全員が一瞬だが顔をこわばらせた。

 駅前の中華料理店に入って席につくと、メニューを見る暇もなく小林専務が大声で「大将!ラーメン10個、チャーハン10個、ギョーザ10人前!」と注文したのだ。僕は小林専務と特殊効果班の60代の班長と同じテーブルに座ったのだが、そこにラーメンとチャーハンとギョーザが運ばれて来た。全員に行き渡ったとき、小林専務が「さぁ、食うぞ!」と号令を掛け、さらに「みんな、残すなよ!」と念を押した。当時の僕はまだ22歳の若者で、食欲も旺盛な時期だから、これくらいの量を食べるなんてどうということもないのだが、特殊効果班の班長は「小柄な老人」という感じで、この量は多いだろうなと思った。小林専務は「班長はな、少し前に病気で胃を切ってるんだ。だからあまり食べられないんだな。お前、チャーハン半分食ってやれ」と言って、班長のチャーハンを半分以上僕の皿に移したのだ。さすがにこの量は厳しいと感じたが、それでも普通に食べきることが出来た。

 全員が完食して店を出たが、小林専務がいない。どこに行ったのだろう?と思っていたら、スタッフの一人が「これで済むはずがないよな…」と顔を引きつらせている。そこへ小林専務が何やら紙袋を抱えて戻って来た。紙袋から取り出したのは「ヨモギあんぱん」だ。それを一つずつ全員に渡して「食え!」と一喝。全員がそれを口に押し込んで、ようやくランチが終了した。

 小林専務が「メシにするぞ」と言ったときにスタッフ全員が顔をこわばらせた理由はこれだったのだ。全員同じものを注文して、残さず食べることを強要するのだ。若いスタッフに聞くと、これは石原プロでは普通のことで、みんなこれを苦痛に感じているのだとか。こんな体育会系の風習が時代の最先端を行くはずの石原プロに残っていることに少々違和感を感じた。

 再び小林専務の車に乗った僕に小林専務が「驚いたか?」と聞いた。「さっきの食事のことですよね。いつもあんな風にされているんですか?」と聞くと、「そうだ。あれにはちゃんと意味があるんだ。ロケの現場ってのは結構タフだからな。体調崩すヤツも出てくるんだよ。体調悪いのに、それを隠して頑張るヤツもいる。だから、いつも目一杯食わせるんだ。そうしたら、体調崩してるヤツが一発で分かるんだ」。
 まぁ、無茶な理屈をいう人だと思ったが、たとえ社員には理解されなくとも、それは小林専務なりの社員の守り方なのだろう。僕は今、タクシー会社のマネジメントに小林専務から学んだことを間違いなく活かしている。

Continued

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