Entame Theater

Episode 19

タクシーを救った配車革命
「アプリが鳴らなくなる日」の前夜



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*コラムは「交通界」様のご厚意で転載させて頂いております
*画像はイメージです

「アプリが鳴らなくなる日」

 そんな日が来るなんてこと、ほとんどのタクシードライバーは想像していないのではないかと思う。今回はその「前夜」の話をしようと思う。

 DiDi、GO、Uberなどのタクシー呼び出しアプリの出現によって、タクシードライバーの働き方は大きく変わったし、タクシー業界を間違いなく救った。

 実は僕たちは、この配車アプリの効果にあまり期待していなかった。なぜなら、「供給過剰」と言われていた当時のマーケットに配車アプリなどを供給しても、お客様は迎車料金を負担することを嫌い、流しのタクシーを使うだけだろうと思っていたからだ。

 だから、アプリベンダー各社はアプリの利用を促進するためにタクシー利用者だけでなくタクシー事業者にも、さらにタクシードライバーに対しても気前よく「甘やかし戦略」を取った。

 まず、タクシー事業者にタブレットを提供し、利用者にはクーポンを乱発し、ドライバーにもインセンティブをてんこ盛りにした。当然これはアプリを「利用してもらう」ために必要な措置だったわけだが、この戦略はタクシー事業者を勘違いさせることになったと思う。

 タクシー事業者がこの先この呼び出しアプリを営業ツールとして利用していくなら、それをインストールするタブレットと、そのタブレットに掛かる通信料は、いつか必ずタクシー事業者が負担しなければならなくなる。でも、アプリベンダーの「甘やかし戦略」はタクシー事業者がアプリベンダーに依存する体質を作ってしまったような気がするのだ。

 日本がコロナ禍に突入したのは、この直後のことだ。

 我々タクシー事業者は営業が出来ない状況に陥った。大阪のタクシーにとって最大のマーケットである「北新地」「ミナミ」は完全にクローズとなり、昼間の時間帯も街中を歩く人はほとんどいない。タクシードライバーは乗客を得ることが出来ず、危機的状況となった。

 タクシー事業者はドライバーを「休業手当」を支給して休業させ、支払った休業手当を「雇用調整助成金」で賄うと言う方法を取った。大阪でもほとんどの事業者がこのコロナ禍と呼ばれた1年半の間、ドライバーを含む全社員を休業させ、雇用調整助成金でその支出を埋めると言う方法を取った。それが会社としても最も痛手の少ない方法だったからだ。

 「アフターコロナ」と呼ばれる時代に入ったのは2021年秋、最後の「緊急事態宣言」が解除された後だったと思う。「雇用調整助成金」の支給ハードルもこの時点から厳しくなったこともあり、タクシー事業者はこのタイミングで営業再開を決めた。

 しかし、大阪で最もボリュームゾーンとなっていた70代のタクシードライバーは、1年半にわたる長期間の休業から仕事に戻ることが出来ない人が多く、このタイミングで多くのドライバーが「引退」すると言う事態になった。

 コロナ禍と言うのは大阪の業界にとって大きな転換点のなったのだ。平成14年の規制緩和以降、「供給過剰」と「過当競争」と言う地獄のような20年間に終止符を打つことになったのだ。

 「休業明け」のタイミングでドライバーが大量引退したことを受けて、需給バランスの逆転現象が生じ、今度は供給不足に陥った。

 しかし、これにより利用者さんは「呼び出しアプリを使わないと、タクシーに乗れない」と言う状況になり、アプリの利用が広く浸透した。これによって、経験の浅い新人ドライバーであってもお客様とのマッチングが叶うようになり、売り上げが安定するようになった。それだけでなく、利用者さんは「安いタクシーを選んで乗る」ことが出来なくなり、大阪の業界は何と24年ぶりに運賃改定を実現し、さらに20年間我々を苦しめてきた「5千円超5割引」と言う極端な遠距離低減運賃から離脱することが出来た。

 つまり「不謹慎」を承知で言うなら、コロナ禍が大阪のタクシー業界を混乱から救ったと言える。

 かくして、呼び出しアプリはタクシーの営業に欠かせないものになったのだが、同時にタクシー無線の利用は減少した。同じ迎車料金を支払うなら、便利に使えた方がいい。そう考える利用者さんは少なくない。

 配車手数料を収入源とする無線協同組合は尽く経営が悪化することになり、タクシー無線から撤退する事業者が増えた。

 これによって、ますますタクシーはアプリに依存するようになった。

 タクシー事業者にとってもタクシードライバーにとっても、アプリに依存するのは決して良いことではない。タクシーにとってアプリは「利用するもの」に過ぎない。アプリに依存し、さらにアプリベンダーの「甘やかし」を当然と思ってしまったら、逆にアプリとの良好な関係を損ない、「アプリが鳴らなくなる日」が来たときにきっと立ち往生する。

 本当に「アプリが鳴らなくなる日」が来るのか、次回考えてみたい。

Continued

*画像はイメージです

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