Episode 15
「10 年後もサラリーマン」で満足?
タクシー求人の「禁じ手」に挑む!
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*コラムは「交通界」様のご厚意で転載させて頂いております
*画像はイメージです
「10年後もサラリーマン、あなたはそれで満足ですか?」
求人情報誌という媒体を使って「まさか自分がタクシー乗務員になるなんて、想像もしていない」求職者をその気にさせる広告を創る。この課題に取り組んで、行き着いた一つの結論がこの広告だった。
タクシー乗務員の求人広告は、取り組んでみると本当に簡単ではない。求職者に「タクシーという選択肢もありかもしれない!」と思わせるために、何を訴求したらいいのか?
僕はまず「ブランディング」を考えた。「大丸タクシーは大阪を代表するホテルプラザに営業所を置き、リンカーンやキャデラックなどの大型ハイヤーを持つクォリティの高いサービスを誇る会社であって、プラザに宿泊する世界中のVIPの送迎を担っている」というコンセプトの広告を創ってみたが、全く効果がなかった。
同時期に別媒体に掲載された、水着モデルが砂浜に寝そべって「堺相互タクシー、夏の乗務員募集キャンペーン」というフリップを持っているという広告がとても効果があったと聞いて、すごく悔しい思いをした。自社無線で独自に顧客を持っていることがドライバーにとってメリットであることを求職者に伝えることは難しく、会社のハイブランドイメージを訴えたところで、求職者には刺さらないのだ。何を訴求するか?何を訴求し得るのか?それを考えなければならなかった。
キャリアアップ。その可能性はどうだろう?
タクシードライバーには考え得るキャリアアップがいくつかある。まず、運行管理者となり、内勤業務に就くこと。さらに、ハイヤーマンとなり、特定の顧客の「お抱え」となること。ただ、管理職になったり専属ハイヤーの業務に就くことが必ずしもドライバーにとって「メリット」となるとは限らないし、そもそも未経験の求職者には想像し難いだろう。そうなると訴求ポイントとなり得るキャリアアップとして「独立開業し、個人事業主となること」というのが一番わかりやすい。つまり「個人タクシー」へのキャリアアップだ。
僕は当時付き合いのあった学生援護会とリクルートのそれぞれの営業マンに「個人タクシーへのキャリアアップ」というテーマで求人原稿を提案してくれるよう依頼した。さほど時間を掛けず両社から提案があった。
学生援護会の営業担当はまだ経験の浅い女性だったが、「制作スタッフに頼む前に自分でラフ案を作ってきました」と見せられた原稿が「10年後もサラリーマン、あなたはそれで満足ですか?」というキャッチコピーと原稿のセンターにフリーハンドで描かれた個人タクシーの「個」と書いたでんでん虫の行燈のイラストだった。
抽象的なようで、すごく分かりやすい!
その場でこのアイデアを採用することに決め、原稿にまとめるように依頼したのだが、「イラストは、このフリーハンドのイラストのまま掲載してほしい」と注文をつけた。
タクシー会社にとっては、所属する乗務員が個人タクシーの資格を取って独立することは決して喜ばしいことではない。10年かけて育てた乗務員が、「育ててもらった恩返しもせず出ていく」という捉え方もあるからだ。しかし、10年間ものあいだ会社に貢献してくれた乗務員がある意味「卒業」していくわけだから、本当は拍手で送り出さないといけないのではないか。そういう思いがあったから、敢えてこのコンセプトで広告を考えたのだ。
そもそも個人タクシーの資格取得はそう簡単ではない。生半可な覚悟で目指せる目標ではないのだ。だからこそ、ドライバーが敢えてその選択をするならそれは応援するべきだし、個人の資格を取得するより「会社に残る」という選択をしてくれる乗務員を増やすべく、経営者が努力する必要があるのだとも思う。
結果として、この広告は大きな効果をもたらした。若い応募者が増えたのだ。そこで入社した乗務員で、本当に10年後に個人タクシーの資格を取得した者もいるが、そういう選択をしなかった乗務員も多い。ただ、「年収1千万円の個人事業主になる」という目標を持てるということを訴求しない手はないと、今も思っている。
求人誌への広告出稿は大丸タクシーではこの頃から定着した。個人タクシーへのキャリアアップのコンセプトで広告のバリエーションを増やし、成果を上げることができた。
僕としては「成功した」という思いだったのだが、その広告が掲載されて以降、何人かの同業者から「アホな内容の広告を作るな!」と苦言を呈された。まぁ、無理もない反応だとは思っている。
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