Entame Theater

Episode 14

「カラヤンの愛した左肘」
条件から物語へと変わる求人広告



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*コラムは「交通界」様のご厚意で転載させて頂いております
*画像はイメージです

1989年某月某日、学生援護会が発行する求人情報誌「DODA(デューダ)関西版」の創刊号に巻頭カラー1ページの大丸タクシーの求人広告が掲載された。


 「カラヤンの愛した左肘」


このキャッチコピーは、大丸タクシーのトップハイヤーマンである伊達実昭をモデルに彼がアテンドした世界中のVIPの中の一人で、ベルリンフィルハーモニー管弦楽団の芸術監督で終身指揮者だった「ヘルベルト・フォン・カラヤン」との逸話を題材としたものだ。カラヤン氏は大阪での公演があるたびに伊達ドライバーを指名し、彼の運転するリンカーン・リムジンを利用した。晩年足腰の弱ったカラヤン氏にドアサービスをした伊達ドライバーは、マエストロのために左肘を差し出すと、マエストロはその左肘を杖代わりに歩くようになった―というエピソードを素材に広告にまとめあげた。

 ドライバーとして働くことを選択しなかった僕は、この会社で何をするべきか?僕の今までの経験を社業にどう活かしていくのか?僕はラジオ番組の制作に携わってきたわけだが、民放の放送のベースにあるのは「広告」だ。つまり僕は「広告の仕事」をしてきたわけなのだ。「このノウハウは大丸タクシーのために活かせるかも知れない」。その答えがこの求人広告となったのだ。


 タクシー業界の求人の手法には当時あまり「工夫」がなかった。スポーツ紙の求人欄に行広告を出すのが主な手法だったのだが、なぜかその求人欄にはタクシー会社の広告が集中して掲載されるのだ。タクシー会社に就職しようとする求職者は、スポーツ紙の求人欄を見れば自分にとって都合のいいタクシー会社を容易に探すことができる。つまり、競馬などのギャンブルに足を突っ込んでしまった人が「手っ取り早く稼ぐ方法」として、タクシードライバーを選択するという図式があって、そこにタクシー会社が求人広告という「網」を張っているということなのだと、媒体社の営業さんに教えてもらった。

 さらに言うと、タクシー会社には「支度金」や「入社祝金」を新たに入社したドライバーに支給する会社が多いのだが、その「額」が訴求ポイントになっている現実もあった。「乗務員募集。基本給〇〇万円プラス歩合給。賞与年2回。月収〇〇万円以上可能。社会保険完備。AT車増加中。マイカー通勤可。支度金10万円支給」など、大差ない内容の広告が並んでいる。実際、大丸タクシーも大差ない広告を出していたのだが、それはつまり媒体社や代理店の提案するままに掲載していたわけで、そこで差別化を図れるわけもなかった。


 そもそも大丸タクシーは、「原則として経験者を採用しない」というスタンスであるはずなのに、このような広告の出し方をしていては経験者しか応募してこない。そもそもタクシードライバーを積極的に選択しようという求職者などほとんどいなかったのだから、やむを得なかったのかも知れない。僕としては「まさか自分がタクシードライバーになるなんて、想像すらしていない」という求職者をターゲットにしたかった。それならば媒体そのものを再検討しなければならない。

 僕には使ってみたい媒体があった。それはその頃猛烈な勢いで販売部数を増やしていた求人情報誌と言われる雑誌だった。当時有力な媒体としては学生援護会が発行する「DODA」とリクルートが発行する「B-ing」だったが、これら求人誌に広告出稿するタクシー会社などほとんどなかった。この媒体こそ「まさかタクシードライバーになるなど思いもしない」人たちをターゲットにした広告を打つことが出来る媒体だと思った。


 学生援護会には僕の大学の同期で、「西部警察関西ロケ」 (内外交差点 episode 07 参照)の修羅場を共に経験した本田勝裕くん(現在はキャリアコンサルタントとして活躍中)がいて、彼と共に「タクシー会社の広告とは思えないような広告を作ろう」と取り組んだ。


 出来上がった広告は「DODA創刊号」の巻頭カラー1ページという露出度の高い広告となった。また、本田くんがその才能を遺憾無く発揮して作ったこの広告は、学生援護会の社内でも非常に高い評価を受けたらしい。

 DODAの創刊号ということもあり、その反響は想像以上だった。連日のように電話が掛かってきたのだが、残念ながらそれは「応募」ではなかった。

 「DODAに掲載された広告を拝見しました。とても素晴らしい広告でした。御社の求人広告を私にもお手伝いさせてください」―みたいな内容の営業の電話ばかりだったことは我々の想像を超えていたが、この広告をきっかけに僕たちは「まさか自分がタクシードライバーになるなんて、想像すらしていない」求職者と出会う旅に出ることになった。

Continued

*画像はイメージです

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